11年連続夏の甲子園出場へ。聖光学院には「エキス」がある
福島県の雄・聖光学院が挑む春季東北大会、その意義
10年連続で夏の甲子園に出場する聖光学院。1世紀に及ぶ高校野球史、その記録を超えるのは戦前、第一回大会から第十四回まで連続で出場した和歌山中(現・桐蔭高校)にまでさかのぼらなければならない。
なぜ、こんなにも強いのか。その秘密に迫っていくルポ、第一回
先がなくとも……春を戦う意義
高校野球では「春は負けてもダメージが少ない」と言われている。
秋は翌年のセンバツ出場の切符をかけた戦いであるし、夏は言うまでもなく集大成の大会となる。その点、春は甲子園に直結する試合ではない。重要視されるとすれば、シード権の獲得くらいになるだろう。
ただし、「負けてもダメージが少ない」という概念は、あくまでもイメージの問題だ。
夏へ向けての臨戦態勢。それを整える意味でも、春を戦う意義はとてつもなく大きい。
「『負けてもいい』なんていったら、大阪桐蔭と履正社……大阪の高校に失礼だよね。シードがないんだから」
聖光学院の斎藤智也監督は、シード制度がないために2015年に夏の大阪大会初戦で激突し、今年のセンバツでも頂上決戦で覇権を争った両校を引き合いに出し、春季大会の価値を説いた。
今春、聖光学院は前年の秋に続き、福島県大会を制した。同県は秋と春の東北大会までの戦績をポイントで集計し、夏の大会でのシード校を決める。その権利を獲得できるのは8校。春の東北大会を控えているとはいえ、2季連続優勝を果たした聖光学院の第1シードは、ほぼ当確といった状況だろう。
それでも、斎藤監督は「まだ足りない」と語調を強め、こう続けるのだ。
「春は『県大会から8試合やるぞ!』と選手たちに言ってきたからね。東北大会出場は最低ライン。県で優勝して満足しているようじゃ、チームが成熟しているとは言えない。今年のチームには、まだタフさが足りない」
県大会から8試合。それはすなわち、東北大会の決勝進出を意味するものであり、そこで勝利を得ることである。だからこそ、「もっとタフになれ!」と、斎藤監督は選手たちの尻をたたき続けるのだ。
タフさ――。それは、聖光学院にとってこの春最大のテーマである。
試合で見せる粘りや勝負強さはもちろん、それ以上に人としての成熟度を養う。そこに重きを置きながら戦ってきた。
コーチを兼任する横山博英部長が言う。
「何のために野球をやるのか? 勝つためにはどうすればいいか? 本当の意味でその答えを選手たち自身で出さなければいけないんだけど、まだその答えにたどり着いていないのが現状。勝つためには6項目の条件がある。それは『打力』『守備力』『投手力』『機動力』『戦術』『戦略』、そして『心』。選手の能力で言えば、東日大昌平さんは県内屈指の攻撃力があるし、学法石川さんにはいいピッチャーがいる。正直、今の段階ではうちが負けているかもしれない。でもね、心。ここだけは絶対に譲っちゃいけない」